Tokyo Choral Association

こらむあんだんて No.205


作曲家の仕事

                                                                                                                                                   伊能美智子

3年前の秋、ソプラノX女史が、ご自身の第62回伊勢神宮式年遷宮祭奉祝コンサートに拙作を奉納演奏くださったことがありました。

お知らせを頂いてしばらく経ったある日、“伊勢にご招待したい”と女史が訪れました。ご招待はよく戴きますが、女史の場合は、条件つきでした。“これまでは殆どがもう死んだ(と女史は仰った)作曲家の作品ばかり。今回初めて生きている作曲家の作品を取り上げるので、ぜひその作曲者の前で演奏したい”と仰るのです。年齢を重ねると面白いこと楽しいことが減ってしまうなかで、久しぶりに高揚気分を味わっていた私は、嬉しく思う反面、当日は仕事が入っていましたので遠慮させて戴くつもりでした。ただ“生きている作曲家”という言葉が妙に脳裏から離れないのです。

1週間迷った末、仕事を翌日に延ばして伺うことにしました。条件つきならこれも仕事に違いない。すると日帰りしなければならないので旅行の計画は慎重に立てたのでしたが・・。当日、早朝から最寄の宇治山田駅までは順調そのもの。ところが改札を出ると駅前にはバスもタクシーもなく、“お急ぎの方は歩いてください”と駅員が旗を振りながら喚くのみ。ゴールが神宮の「大学駅伝」最終日とは露知らず、道路は封鎖され各大学のイベントで大盛況、お参りと重なって日本中の人が集まったかに見える混雑を掻き分け会場へ辿り着くまで1時間余りも歩いたでしょうか。優雅に演奏奉納する女史を真正面に見届けて仕事はしっかり、あとは圧倒的な人波に潰されそうになりながら宇治山田へ戻り、停まった特急に無理矢理飛び乗りました。車内は超満員、知らない誰かにもたれかかって辛うじて立っている姿のまま名古屋へ向かった90分はまさに難行苦行、生きている作曲家の仕事の仕上げに相応しいものでした。ちなみに、お参りはしておりません。伊能

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