夏のある日

合唱指揮者 岸 信介

「しおかぜは午前中運休です」と駅員さんは事務的に私に言った。岡山駅朝6時50分、8月23日金曜の事だ。その言葉を聞いて私はタクシー乗り場に急いだ。そう、これは今年も無事に開催された「全日本おかあさんコーラス全国大会in松山」の前日の出来事。今年は各地で甚大な自然災害や台風の襲来があり私のハプニングは取るに足りない事ですが、しばしお付き合いください。

 

さて、理事長を拝命している現在「全国大会」と名の付く大会の前日の午前に正副理事長会議、午後に理事会が開かれるので、私は前々日の夜に<前のり>するのが慣例です。今回も夕方羽田から松山到着の予定ではありました。折しも19号、20号と上陸した台風で飛行機は飛ばず、急遽品川から「行ける所まで行くか」とのぞみ乗車。さて既に新大阪止まり。足止めの同胞がこんなに居るのかと思う程の混雑の中、ホテルが取れたのは幸運。就寝。

翌23日「広島→フェリーで松山」と考え新大阪発6時のぞみ乗車(ちゃんと走ってくれる事に心底感謝、しかし強風でフェリーはダメか?)車掌室で「その先」を尋ねると「岡山発松山行しおかぜ、1番列車は運休、2番から運行予定」との事。特急しおかぜ2番列車では会議に20分遅刻だ…。と考えながら岡山でのぞみ下車。そして冒頭の駅員さんとの会話に繋がるのです。

 

会議は、10時30分開始、今7時。3時間あればタクシーなら間に合う!岡山駅にたった一台止まっていたタクシーに飛び乗って「松山まで!」「え?四国の松山ですか?」東京ならタクシーは長距離大歓迎ですが、聞けばドライバー氏(かなりの高齢)は普段は農業に従事していて繁忙期だけ個人タクシーとの事。松山と聞いて相当弱気になった運転手氏を励ましながらの200kmの道中となりました。

 

途中「お客さん、別のタクシーに乗り換えて下さい」と高速道で言われても、こちらも「運転手さん、頑張りましょう。トイレ大丈夫ですか?」高校野球や世間話も織り込みながら瀬戸大橋。運転手氏はここで弱気のピーク「お客さん、無理ですぅ~」確かに台風の強風の中、瀬戸大橋走行は物見遊山とはいかず運転手氏の気持ちも判るがこちらも必死です。絶対無理なら<走行禁止>の表示が出るはずだし「運転手さん、行きましょう!」

 

決死の強風瀬戸大橋走行は私も冷や汗もので、車が風で横揺れ、横滑りしつつ、二人に妙な連帯感も生まれ四国上陸。運転手氏は少々余裕も見えてきましたが問題は目的地に着けるか、です。「お客さん、どこで降りるんでしょうねぇ」と聞かれても…(汗)。

ナビも作動せず高速を降りて再度入るというすごろくなら「1回休み」的なこともありつつ、ついに「松山」の標識。

そんなこんなで松山市内に入り不案内な運転手氏に岸ナビで「多分右、多分左」と走行し「県庁」の標識が見えた時は心底ほっとしました。目的地松山全日空ホテルに10時10分到着。運転手氏「お客さんの迫力に負けました~」

古人曰く“時は金なり”の諺もありますが、これが私が自分に課した「ベストを尽くせ!」です。その時出来る、可能な限りの最善を尽くして出来なければ仕方ない。自分で苦笑いするしかないのです。

この日の気分は、正に台風一過!

エッ?タクシーメーター?…(笑)