楽譜をもって出かけよう!
合唱指揮者 仁階堂 孝
何かいい発見や発想が生まれるかもしれないと、楽譜をもって出かけることがしばしばあります。出かける先は、その日の気分によって様々です。
公園や美術館、六本木ヒルズなどの高層ビル、神社や寺、空港…時には青春18きっぷで、各駅停車の電車に揺られ旅しながら、楽譜を眺めるのも楽しいひと時です。
例えば、公園でそよ風に吹かれながら楽譜を読んでいると、いつもは着想しないような発想が浮かんできたりして、気持ちがワクワクしますし、車窓を流れる美しい景色を眺めながら、譜読みをしていると、普段よりも集中できて、能率があがるような心持ちになります。
楽譜だけでなく、演奏のバックボーンを太らせるために、学術関係の書籍を読む際にも、様々な場所に行きます。カクレキリシタンの本、宗教や民俗学関連の書籍、戦記や空襲関係の証言記録、作曲家の自叙伝…読み進めることに忍耐が必要な時や、記憶力を総動員しなければならない時は、近場の温泉浴場などに行って、温泉に浸かっては読み進めるということを繰り返します。
いつもとは違った場所で着想したことや記憶したことは、案外に印象的に記憶されるようで、その場所の風景や匂いを想像するだけで、すっと脳の中から引き出されてくるように感じています。
もちろん、それぞれの場所に向かう電車内でも、楽譜や書籍を読み進めます。つい熱中して乗り換えなければならない駅で乗り過ごし、いくつか先の駅まで行ってしまうこともしばしばです。そういう時こそ集中しているので、良い発見や発想が生まれるのですが…
今までの中で一番面白かったのは、野宿しながら(20代の頃の話しで今はさすがにできませんね。)九州を一周する譜読みの旅をしたこと。旅の開始2日目に、大分県臼杵市の石仏公園で野宿し、満天の星空の下、蝋燭の灯りで、武満徹のSONGSを読み込んだことは、良き想い出となっています。
砂場のようなところに楽譜を置いて歌ったので、今でも武満先生の「混声合唱のためのうた」の楽譜は、なんとなくザラザラしているような気がするのです。