良き温度で。そして、ふさわしく。
二期会ピアニスト/二期会オペラ研修所ピアニスト/合唱指揮者 木村裕平
『適当に』という言葉が、実は好きです。ネガティブな言葉として思われがちなのですが、《ふさわしく良き温度で》ということ。簡単な様で、難しい…
私は、父の赴任先のブラジルで生まれ育ち、その後日本とドイツで育ちました。生まれも育ちもバラバラな国々。引っ越しや転校も多くしました。
その度に緊張していたら身と心が持ちません。その時に自然と得たのが、《適当に》という言葉。頑張りすぎず、ふさわしく捉える所だけ捉えて、後は力を抜いて笑っていこう。この言葉を唱える度に、緊張していた心がふっと軽くなっていくのでした。今もこの言葉にどれだけ助けられているでしょう。
さて。様々な国で育ってきた事の影響か、今ではコレペティトゥア、ピアニスト、合唱指揮者、作•編曲など、様々な仕事をさせて頂いています。
(コレペティトゥアとは、オペラの現場などで歌手達に歌唱指導などを行う職業です。技術的な事が多岐に渡り、例えば私が属す二期会ピアニストの採用試験内容は…
- ピアノソロや初見演奏
- オペラの中の一場面の全ての歌手パートの弾き歌い
- イタリア語の発語
- イレギュラーに振られた指揮にぴたりと付けて演奏する
- 面接etc…
これらの試験を、10名ほどの著名な先生方の前で披露しなくてはなりません。ノミの心臓の私は、今思い出しても逃げ出したくなるような、非常に厳しい試験です。)
そんな中、7年程前からは合唱団の指導もさせて頂く事になりました。発声や、言葉のディクションを整えたり、詩のサブテキストを探ったり、弾き振りをしたり。そういえば、コレペティの仕事内容と非常に似ているなあと感じたことを覚えています。
そして、更には合唱にはハーモニーがあり、人数が集まれば倍音も拡がり、その豊かな響きに、それはそれは感動したものです。
一方で、様々なプロの一流歌手達との日常からは、沢山の学びを貰えます。歌手自身の本番直前の練習風景や日々の発声練習の内容など…また、色々な裏技まで…どれも教科書には載っていない事ばかり。何と私の声楽知識の宝庫となっているでしょう!
それぞれの仕事が土俵は違えど、糸で繋がる一瞬でした。
そういえば、私の育ったドイツでは他にも様々な肩書きを持つ音楽家がいました。
それぞれの分野の世界観がありながらも、必ずどこかでリンクする事柄があります。一つの道が困難に直面した時に、もう一つの道から思わぬ恵みがもたらされる事があります。
音楽の世界でも、様々な仕事を通ずることで音楽の深みを得られ、何だか私の音楽人生が豊かになっていくような気がしています。
(今回機会を頂き、拙い文章を書かせて頂いているのも、合唱との出逢いのお陰です。有り難いことでございます。)
『適当に』。感謝を共に、この先も精進出来ればと、改めて心に誓う次第です。