荒牧亀太郎先生を偲んで

天上桟敷からアドバイスを!

米国留学から戻って、創設者である父のもと東京少年で指導していた私に、ある日、NHKの名物ディレクターにインタビューする仕事が合唱指揮者協会から入りました。かねて厳しい方と聞いてはおりましたが、初めての電話はけんもほろろ。それでも2度3度必死に食い下がり、会って頂く約束をとりつけ出来上がったばかりのLPを携えて参上しました。すると「インタビューはさておいて、すぐ聴こう!」と仰って、職員しか入れない資料室へ。横に鎮座した私には、聴き終わられるまでの時間がどれだけ長く感じられたことか!やっとヘッドフォンをはずし重かった口を開かれた時の表情は穏やかで、私どもを認めて下さったと直感しました。これが、本年1月に享年93歳で天に召された合唱界/放送界の重鎮、荒牧亀太郎氏と私の出会いです。

その後、ラジオ番組出演の機会を頂きレコーディング。スタジオにはメンバーと私。調整室には荒牧先生と父が陣取り、さあ真剣勝負です。無我夢中でテイク1を終えると、一言。「もっと肩の力を抜きなさい!」終生続いた荒牧流〝檄〟の最初の洗礼でした。的確ですし、音楽への敬意や歌い手への愛情に充ちています。たった一言で演奏が引き締まり、一瞬にして垢抜けます。父も「冴子さん、あなたの負けだ」と脱帽。この日を境に、折に触れ、合唱隊の陰のご意見番を買って出て下さるようになったのです。

N響指揮者の故・森正氏をはじめ、大阪そして東京のNHK、東混を通じ第一線の演奏家と親しく交わり、逸材も育ててこられた荒牧先生。一方で、歌番組をプロデュースすれば、立川澄人の相手役に相良直美を抜擢して高視聴率番組に。コンサート前には衣装から入退場や挨拶、発声や演奏法・指揮の勘どころ・曲の解釈、果ては演出・照明・プログラムにまで目と耳が行き届く総合プロデューサーでした。

先生から教えて頂いたことに感謝し、これからも多くの方々にその精神をお伝えし続けたいと思います。どうぞ天上の桟敷から合唱界を見守っていて下さい!

長谷川冴子2(重い)

長谷川 冴子

世界合唱連合(IFCM)理事

全日本合唱連盟(JCA)常務理事

東京少年少女合唱隊(LSOT)桂冠指揮者