もっと心に残る、いい曲が聞きたかったな!
合唱指揮者 渡辺 三郎
先だっても、ある合唱祭に行ってきた。小学校の部だった。ステージから響いてくる歌声を聴いているだけで、無性に涙が出てくる。音が少しぐらい“オヤ?”と思うところがあってもそんなことは、全くに気ならない。どの学校もみんなのびのびと、元気いっぱい歌っていて、感動的だった。子供の声って、なんでこんなに素晴らしいんだろう、聞く人の心に、ストレートに沁みこんでくるのだろう、との思いで胸がいっぱいだった。でも、演奏が全部終わって駅に向かう道、これが、また、いつもと同じ感想なのだが、冷静になって先ほどの演奏をふりかえってみると、いまひとつ物足りなさを感じてしまう。
演奏された曲のほとんどが日本語によるもので、その点はうれしかったのだが、“もっと心にしみるいい曲が聞きたかったな、合唱がますます好きになって、ずっと合唱から離れられなくなるような、そんな中身の濃い歌を聞きたかったな”というものだ。
“技術的には易しくて、でも、心に残る、心が揺さぶられるような名曲の誕生”この実現が、いかに難題であるかは、勿論分かっています。合唱連盟をはじめ、いろいろな機関が、この視点に立って、さまざまな企画を立てて取り組んでいることも知っています。けれども、そうした努力にもかかわらず、思うような成果は、まだまだではないでしょうか。あのすばらしい子供たちが、これからも、ずっと歌い続けてくれるかどうかの決め手は、こうした名曲との出会いの場があるかどうかにかかっています。この、ごく当たり前のことを、あらためて胸に刻んだ合唱祭でした。