大学生の合唱
指揮者 山脇卓也
みなさん、こんにちは。東京で合唱活動をしている山脇です。合唱連盟の皆さんには本当にいつもお世話になっています。この場をお借りしてお礼申し上げます。今合唱に携わっておられる皆さんはまだまだ大変な状況なのではないかと思います(この合唱ニュースが手元に届くときには練習が再開できていたらいいなと思うのですが…)。《当たり前が幸せと知った》という『群青』の中に出てくる言葉をこれほど感じる日々が来るとは。日本だけではなく、世界でこの疫病が収束することを願ってやみません。
さて、せっかくこのような場をいただいたので(理事でもないのに!ありがとうございます)、少し自己紹介をさせていただきます。私は少年少女合唱団から合唱を始め、高校で混声、大学で男声合唱を経験。卒業後は特に可能性を感じた男声合唱を続けるために合唱団お江戸コラリアーずに参加、指揮を始めて今に至ります。現在は男声だけでなく、女声・混声の合唱団とも一緒に活動させてもらっています。多くの先生方、友人、家族のおかげで人生の大半を合唱と共に歩んでいることは大きな幸せです。特に最近は大学生と関わることが多く、高校から大学、そして一般の合唱団へ繋いでいく環境をどうやったら作れるか、日々試行錯誤しています。あまり大学生の合唱の紹介をされることは少ないかなと思いますので、少し今回は今の大学事情を紹介しようと思います。
まず最近の大学生、忙しいです。自分の学生時代(20ウン年前)と一緒に考えてはいけない、ということを感じます。まず取得すべき単位数は変わっていないのですが、授業回数が増えているため休みの期間が約1ヶ月短くなっています。そして授業回数を確保するために、祝日にも学校に行かなければなりません。以前だったら大歓喜した休講も、必ず補講が組まれるために全く歓迎されません。大学側も大教室に多くの学生を詰め込んでの授業、というスタイルを減らしており(もちろん残ってはいますが)、少人数で構成されるゼミ型、反転講義などの事前学習型など多様な講義を受講できるよう工夫しています。そのため、6限・7限といった夜間の時間帯にも授業が組み込まれるのが当たり前になってきました(練習に出られない!)。学生に手厚い教育環境を提供しよう、そしてその勉学をサポートしようという姿勢でがんばっているので、必然的に学生のやることが多くなっているのが現状なのです。
次に忙しいのはもちろんアルバイトです。大学生はお金がない、これは時代を問わないと思われるかもしれませんが、やや事情が違います。1990年代に私大生の仕送り額平均がだいたい12万。それが今は8万です。大学生が+4万多く稼ぐには時給1000円で40時間多く働かなくてはいけません。さらに、学費を自分で稼がなければならない学生も少なからずいます。
最後に就職活動です。私も2000年就職ですので、大卒就職率が最低の年でした。ある意味最悪の年だったわけですが、それ以降も企業の余裕がなくなり、いわゆる「即戦力」を欲する企業が増えたわけです(授業が大変になったのもそういうところの影響があります)。そのため選考の前にいわゆる職業体験の「インターン」に行く学生も多いです。早くに企業体験ができるというのも魅力ではありますが、内容は企業によりまちまち、長期のものになるとかなりハードな内容となるようです。
最近の大学生の生活を紹介してみましたが、他にも資格試験の勉強や実習なども自分の頃と比べてもかなり忙しくなっている様子を感じていただけましたでしょうか?しかし、その中でも合唱活動をしようという人は変わらずいます。特に高校から続けようという人が増えているように感じ、嬉しく思っています。大学合唱団の数は残念ながら減少していると思いますが、活動はより広がりを見せています。高校や中学のOBOGが集まったり地域の大学生が集まるユース合唱団、インカレの大学生が集う合唱団などここ10年くらいの流れの中で大学生の選択肢が多様化してきました。そんな中で大学合唱団の存在意義が改めて考え直されてきたと思います。例えばコンクールに新たに参加しレベルアップを志向する合唱団が増えたことなどは典型的なところかと思います。
何より大学合唱団のいいところは、自分たちの意志が運営・選曲に反映されやすいことです。新曲の委嘱なども学生から声があがって実現することも多いでしょうし、客演指揮者を呼んだり、ジョイントコンサートを計画するなど、自発的な活動ができることが最大の魅力です。これは高校までには(余程盛んな高校で無い限り)経験できないことではないでしょうか。
最近はコロナの影響で若者への風当たりが強いのが気になっています。学生は学生で限られた時間の中で、明日の自分のための勉強を(講義に出るということではなく)しています。時にハメを外したり、いろいろやらかしてくれるのが大学生ですが、それも含めて僕は勉強だと思っています。もちろん犯罪や反社会的なことは論外ではありますが、少しだけ温かい目でみてあげて欲しいなと思う今日この頃です。(写真:学生時代(現NHKアナウンサーの後輩高瀬さんと。)