テーマ:「楽譜コピー」問題から著作権法を考える
前号では、「こんな場合に楽譜コピーは適法か?」というお題で、具体的な事例を挙げて「楽譜コピー問題協議会」に問い合わせた、というところまででした。その結果は、ざっとこんな感じです。
1.買った楽譜だけれど、使い勝手の都合でコピーして歌いたい
分厚い楽譜の一部しか歌わない、書き込みで汚したくない、などの理由でコピーを使う。ピアニストが譜めくりしないで済むようにコピーを横長に貼り合わせて譜面台に置く、などのケース。
▶演奏会など公衆が集まる場で使用する場合は、著作権法30条(私的使用のために複製ができる規定)にあてはまらず、違法とされています。
2.暫定的・一時的コピー
在庫切れの楽譜が入荷するまで暫定的にコピー譜で練習する、練習見学者のために貸す、コンクールの審査員用に提出し、自分はコピー譜で歌うなど、一時的にコピーしたい
▶これらは、用が済めば回収、廃棄することを前提とした一時的な使用のケースですが、法30条にはこうした事情を斟酌する規定がないため、違法。
3.夫婦での使用なら?そもそも「少人数」とは?
法30条でコピーが許されるケースである「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」とはどれぐらいの範囲?
▶「個人」「家族」であっても、演奏会など公衆が集まる場に持ち出しての使用は1のケースと同様、コピーは認められていません。
▶「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」については、判断基準となる裁判の判例がなく、解釈は多様ですが、たとえば文化庁ではこんな解釈をとっています。(※)これによれば、「指揮者とパートリーダーが演奏曲目を検討するために集まった」というケースでは、どうやらコピー譜の使用は可能と読むことができそうです。
(※)「人数的には家庭内に準ずることから通常は4~5人程度であり、かつ、その間の関係は家庭内に準ずる親密かつ閉鎖的な関係を有することが必要とされる」 「例えば親密な特定少数の友人間、小研究グループがこれに該当」(文化庁webサイト「著作権なるほど質問箱」より)
著作者の権利を大きく犯してはいないのに、なぜ?
以上のケース、いずれも作者や出版社の権利(財産権や人格権)を大きく侵害しているとはいえなさそうなのに、著作権法上は「違法」とされてしまいます。なぜ利用の実態と法律がかけ離れているのでしょうか?
法律の専門家によると、日本の著作権法では、コピーが可能なケースを個別に限定列挙する方式で定めているため、それらの規定に該当しなければ「違法」とされてしまう、という問題にたどりつくのだそうです。確かに、著作権法では「譜メクリのいないピアニストの事情」とか「コンクールの審査員に楽譜を提出しなければならないのに暗譜が間に合わなかった合唱団の事情」とか、そういった事情までは想定していないのですよね。一言でいえば「杓子定規」ということになるのが、今の日本の著作権法の宿命なのです。
では、私たちはいったいどうすればいいのでしょうか?「フェアユース」という思想を手がかりに、次回はわたしたちがやるべきことを考えてみたいと思います。
このピアニストさんの命運は?