思いつくままに・・・。
指揮者:藤井宏樹
誰もが経験した事があると思うが、幼い頃遠足に出かけて食べたお弁当が、こよなく美味しかった事。いつもと変わりない、おかずだったのに、なんであんなに美味しかったんだろうと・・・
芸大時代、暗譜が出来ず、畑中良輔先生に譜面を取り上げられた。コピー譜だったそれを見て先生、「今から楽譜を買いに行ってきなさい。版の種類は何でもいい、気に入った装丁の物を購入するように。」
次のレッスン、スラスラと暗譜されている私の演奏を聴きながら、「次はもう少し高い楽譜を買わせるかな・・・笑」と。
先日、詩人の佐々木幹郎、作曲家の西村朗両氏とお会いする機会があった。3月にお二人の作品個展をやるためだった。
すでに練習に入ってしばらく時間は過ぎていたのだが、さてこれら作品の詩が、言葉が全くもって難解至極。さらに音楽がそれを凌駕するほどの難しさ、言葉を伝えるのはこれはもう不可能・・・人類まだ、これを演奏出来ないのでは?
歌い手達も口々に悶絶の語録をのたまわっている。
そんな矢先にお二人のレクチャーがあったのだ。
詩人曰く・・・
最近は横書きされた詩もよく見かけるようになったが、この詩は縦書き。
地球には重力があるから、読まれた言葉の力は下に溜まってくる・・・
我々のほとんどがその時、心の中に「は?は?〜」と呻き声を発していたでしょう。
歌い手の一人が「先生のお書きになった詩が、私には難解で・・・」と痒いところを切り出してくれた。
「理解不能なる事を必死で書いているのです。解って貰っちゃこまるよ。」
と・・・
さて西村先生はと言えば、「では、せっかくですから、佐々木さんにこれらの詩を詠んでいただきましょう」。
え〜っ作品の音楽解説とかってないの?と皆がそう思っている時、佐々木詩人はスーッと詩を詠み始めた・・・
何と表現してよいやら!
詩が言葉が空間に飛び回り始めた。流れは確かにある力を持って、落ち込んで行く。総てが重さの色彩を持ち、放たれてゆくのだった。
一同唖然呆然・・・
詠まれる速度の、音程の、様々な表現が、生き生きとした氏の声に住み、正にこれはタ、テ、ガ、キ、の演奏なのであった。
「さて皆さんこのように、私は曲を書いているのですから、このように演奏して頂きたい」と西村氏はひと言・・・
音楽を読み解く身にとってこれは巨大な衝撃である。おそらくこの日の参加者ほとんどが、少なからずこの衝撃波を体験しただろう。貫かれた身体にやがて生まれてくる、何かはまだ未知数なのだが。
人が未踏の未来に向かい、歩みゆく中で体験してきた様々な刻は、到底、情報やマニュアルには載せきれるはずはない。
進みゆく激動の時代に、音楽の、合唱の豊かな未来は、いつも拓かれていると、私は信じている。