■日野市立日野第三中学校合唱部

(指揮・ピアノ・歌)村上亮

今年度の東京都合唱コンクールにたった10人で出場し、金賞に加えて審査員特別賞を受賞。5人の審査員が総意として「最も深く印象に残る演奏」と称えた合唱部です。審査員特別賞というのは、実は滅多に出る賞ではないので、この日の運営スタッフや事務局員はじめ、少なからずの大人がざわつく。「実は前からちょっと気にはなっていたんだけど。」という人もいたり。そんなことがあって、「いったいどんな部活なんだろう?」と、日野の山の上へと取材チームは向かったのでした。

寝静まった夜には多摩動物公園のライオンの吠える声が聞こえる。タクシーの運転手さんがそう言う、緑豊かな多摩丘陵の住宅地の(かなり)上のほうに日野三中はありました。丘のふもとにある隣の中学校よりも通学は大変です。でもそのぶん、「山を登ってでもここへ来たいという覚悟」のある生徒が多い。顧問の村上亮先生は本校の校風をそう表現しています。

さてその丘の上の学校の、明るく広々とした生徒食堂が合唱部の本拠地でして、ここはグランドピアノもステージもあって、ちょっとしたライブハウスのようです。ここで日々の練習のほか、校内ミニコンサートも開くそう。ビリーズ・ブートキャンプのような、けっこうハードな筋トレをこなしたあと歌う。部員が少ないこともあり、ディスタンスを広くとって歌っていますが、これ、一人ひとりが自立していないとなかなかできない。結構難しいです。チームとして自主性が豊か。ユルい雰囲気ながらハグするほどの仲のよさ。審査員の先生たちのハートを鷲づかみにしたのは、そんな人たちでした。

村上先生は本校に着任して3年目。大学を出て初めての任地であった前任校では卓球部の顧問だったそうですが、まさにコロナの緊急事態下で初めて合唱部の顧問を任されました。歌うことができない暗闇を歩んだのは、今の3年生も全く同じです。今年の合唱コンクールの快挙のあと、3年生5人が受験勉強のため現役を離れました。去っていく3年生も残された下級生も互いに不安を感じるなか、3年生は練習のレシピを書き起こしました。自分たちと先生とで共に手探りで過ごした3年間の記録です。

部長さん(3年生)は同じ学区にある七生緑小学校合唱部の出身。先輩たちが三中で頑張っている様子を知っていたので、同級生4人とともに「山を登る」ことにしたそう。少人数なので気を抜けないというプレッシャーは感じつつも、いまやっとお客さんの前で歌うことができるようになり幸せを感じている、そんな部長さんが下級生たちに贈りたい言葉は、「歌う楽しさを忘れない」こと。彼女は高校でも合唱を続けたいので、いい合唱活動ができるような志望校を模索しているそうです。村上先生が日々の発声指導で心がけている「一生歌い続けられるような声」にしてあげたいという思いと、まさにシンクロしているような気がします。

東京都合唱コンクールの審査員特別賞はこれまで、東京の合唱活動の多様性を示すような演奏、それに、合唱を楽しんで続けようとする人に勇気や希望、ヒントを与えてくるような演奏に対して贈られてきました。今回の取材で、それを納得しました。

・大学での専門はピアノながら、もともと歌うことが大好き。一時、心の問題から人前で歌うことができなくなってしまったときに一念発起し、発声の指導法を勉強したのだそう。合唱部では先生も混じって歌っています。ベースの声部が加わると、この合唱部は2度おいしい。そしてズボンのベルトを忘れて来た村上先生を部員たちがしっかり服装チェックするところなど、ユルくほっこりとした、ほどよい車間距離を感じます。

・先生が作ってくれた音源を聴きながらパート練習。自宅でも練習をしてきてくれるので、先生も助かっているそうです。

・「練習のレシピ」。先生の不在時にも自主的に練習を進められるように。