新たな文化の創造

 

                                  岩本達明(合唱指揮者・神奈川県合唱連盟副理事長)

 

2020年5月25日、コロナの緊急事態宣言が解除されたその日、全日本合唱コンクールの中止が発表されました。

 

学生たちとおこなっていたZoomミーティングでは、涙、涙の会議となりました。そんな日に、中止になったことに対する思いを、新聞の取材で語らなければならなかった若者たちのことを思うと、いまでも心が痛みます。

 

インターハイ、全国総合文化祭、甲子園などが軒並み中止となり、文科省からは、各県レベルで、最上級生のために、何かしらの代替の大会を検討するようにという要請がありました。

 

それを受け、私が副理事長をしています神奈川県合唱連盟では、全国に先駆けて、「神奈川県リモート合唱コンクール2020」の開催を決定しました。

なぜ、「リモート合唱」としたかですが、これまで、複数の動画を組み合わせた作品のことを「ヴァーチャル合唱」といったり、「オンライン合唱」「分身合唱」「リモート合唱」などといわれてきました。大会名を考えたときに、「リモート(複数の対象が離れている状態のこと)」が、現在の状況にぴったりだと思いました。離れている状態は「距離」だけではなく、「時間」のことも含まれています。もし、今の音源で動画作成ができなくとも、昔の演奏を加工してアップしてもらうことも可能だと思ったのです。

そして、YouTube 上に限定公開でアップした作品を、お互いに鑑賞しあうという催しは大きな反響を呼び、全国の合唱団をはじめ、台湾やハンガリーなど海外の団体も合わせて 99 団体の参加申し込みがありました。審査発表もライブ配信により実施し、リアルタイムで賞状のメール送信もおこないました。

審査員には映像ディレクターの先生にも加わってもらい、これまでとは異なる観点での審査をして頂けたことも良かったと思います。

 

この間、合唱団とはオンラインで体操や発声、パート練習をおこなったり、練習動画を定時にYouTube配信したり、広くはオンライン合唱講習会等などを企画してまいりました。

 

ちなみに、神奈川の高校は、2021年3月まで時差登校が継続することが決まっています。

また、神奈川県立音楽堂では、舞台にあがり歌唱できる人数が20人に制限されているため、大人数の合唱団の事を考え、映像と共に歌う合唱フェスティバルも開催を予定しています。

 

音楽は生に勝るものは無いとは思いますが、今できることを精一杯考えながら、少しでも合唱をする人達が元気になれるよう、先日も、ホールや映像関係者の協力のもと、合唱団やえ山組がオンラインでアメリカのクロノス・カルテットと共演し、ドイツの放送局からその様子が配信されました。国際コンクールもオンラインで開催されるなど、リモート合唱は世界へと発信できる文化になっていると感じています。

これからも、総合芸術としての、新たな文化づくりをすすめてゆけたらと思います。

コロナの一日も早い収束を祈っております。