夢の、また夢

東京都合唱連盟顧問 金川明裕

手に入れたいものはたくさんある。けれど人生あと僅かと識り、あれもこれもと言い募るのは余りに強欲だ。もし神さまが「1つだけ叶えてあげる」とおっしゃっるなら、貴方は何を望むだろうか。私はこの国に合唱学校が1つ欲しい。Choir School、合唱の専門学校である。中学卒業資格を持つ者なら誰でも学ぶことにできる場所。今まで無かったことが、私には不思議でならない。菓子職人になりたければ、その技術を学ぶに相応しい学校は多く存在する。サッカー選手を目指す若者には、Jリーグの下部組織が丁寧な養成指導を施してくれよう。それなのに、合唱のプロフェッショナルを志す者には、その方法がない。どうしてもというなら、海外へ留学するしかないが、経済的に無理、ということもある。学校で学ぶべきことは、理論と実践である。独学でその両方を身に付けた人は多く、まあこの業界で活きている同業者のほとんどがそれに当て嵌まるが、決して効率が良かったとはいえない。2年、3年、4年、みっちり修業できる場所が与えられていれば、もっと裾野は広がったであろうと思う。殊に欠けているのが理論の分野で、学問的・科学的裏づけが伴えば、指導に自信が持てよう。一緒に学ぶ仲間ができれば、互いが勇気づけ合うに違いない。このようなミッションは、合唱連盟が率先して進めるべきと思い日日働いてはいるのだが、その行く手を阻む壁はとてつもなく高い。まずは当たり前のようにお金の問題である。この不景気の時代、普通の学校経営すら厳しい状況の中で、素人の私たちが手を染めるにはリスクが高すぎる。かといって、ポンとお金を出してくれるスポンサーがいるわけでもない。最近はクラウド・ファンディングのような手法で広く投資を募るのが流行りだが、そもそも合唱が認知されていない現状では如何ともしがたい。そして何より言語の障壁がある。優秀な外国人講師を招いても、講習の内容が十分理解できないのでは、そもそも意味をなさない。せめて英語が第2国語として定着する日を待つか。私が生きている間には無理なのかなぁ。切ない。夢の、また夢。