この速さ恐るべし

 

合唱指揮者 松村 努

インターネットの高速化を勧めるコマーシャルの一言。おもしろいので印象に残った。速くなると良いことがあるらしい。ネットゲームをやらない者にとって何処まで利便を感じるのだろうか。4Gから5Gへ。スマホの画面上にある小さな数字が4から5に変わる!?成績が上がったような気分だ。何か良い事がありそうだが、車どうしがぶつからない自動運転が可能になると言われても理解できない。リニアモーターカーが完成すると品川→名古屋は40分。とんでもない速さだと分かる。だが、日帰りの仕事が増える。美味しい手羽先をゆっくり食べに行く時間は確実に無くなる。東京→ニューヨークを53分で結ぶ超音速旅客機も夢ではないと言う。時差ボケはどうなるのだろう。昼だ夜だという時間の概念がそもそも無くなってしまうかのようだ。・・・それにしても人間は何故こんなに高速を求めるのだろう。

スローフードという言葉が出回ってから、かなりの時間が流れた。1986年頃のイタリアが発祥の地だという。ローマにマクドナルドが出店した事が切っ掛けとなったとの説もあるが、簡単に済ませるいわゆるファストフードはイタリア人の食文化に合わなかったのだろうか。時間を掛けて食事をする事が体にも良いし、コミュニケーションを取ると言う意味でも大事な時間だという考え方は大いに賛成である。深く味わい、そこに食文化が生まれ、伝統料理が受け継がれていく。

そんなことを考えていたら昨今の合唱団事情が重なって見えてきた。パッと生まれた合唱団がもの凄く上手かったりする。若い人たちの合唱能力は大変な加速度で上昇していることは間違い無い。だから、腕に覚えのある人が集まると、それだけでかなりの水準の演奏が可能となり、アマチュアとは思えない様な難曲を軽々と歌って見せる。凄いなと思う。

一方で老舗合唱団は30、40、50周年を迎え、素晴らしく味のある演奏を聴かせてくれる。

合唱団と指揮者の深い信頼関係が無ければ到底成立し得ない指揮法も存在するのだが、沢山の時間を掛けて創り上げた、その合唱団にしか出せない深い味わいが素敵だ。そこには人と人の繋がりがあり、信頼があり、合唱団に対する愛と、固有文化が存在する。素晴らしい事だ。

腕に覚えのある若い人たちが、そんな人と人の繋がりを持って30、40、50年仲間と歌い続けてくれたなら、5Gになろうが、リニアモーターカーが走ろうが、超音速旅客機が飛ぼうが、日本の合唱はより一層深い味わいを持った文化として存在していくことだろう。

だから今こそ、スローコーラスを推奨したい!