ヒーローはそこにいる!

ピアニスト 小田裕之

こんにちは。ピアニストの小田裕之です。

大学を卒業して少しの間留学し、しばらくは只我武者羅にやっていたと思います。自分から足を踏み出さなければ、又、自分から話さなければ何もないと外国に住むと良く分かったからです。その甲斐あってか今日までに色々な思い出もたまってきたような気もします。僕に関する個別の話はどうでも良いのですが、過去も現在も色々な現場に実はヒーローがいることに気付きました。そのヒーローが特定されているとは限らないのですが…。少なくとも僕を鼓舞してくれるものが明らかに存在しているのです。それを敢えて最大公約数的に言葉に抽出すると、「コミュニケーション」だと思っています。それは様々な感情に影響を及ぼします。

いつだったか、やっと合唱団の練習も再開し、久しぶりなもので伴奏を通すというよりは、音取りに付き合いましたが、「ピアノの単音と複数の人の声でのユニゾンだけでもこんなに美しく楽しいものだったか」と感想を持った記憶があります。シンプルな形の中に、そして地道な取り組みの中に、美しさや力がこもっていることは音楽をする上で忘れたくないところです。アカペラでユニゾンは物凄い威力ですよね。ピアノ作品でもバッハ、プロコフィエフでもユニゾンによって不安であったり、逆に祈りであったりが聞こえてくる所があります。

この間、数度しか練習しない皆さんと合唱祭で「となりのトトロ」「今年(作曲:松下耕先生)」を弾いたのですが、ピアノとずれているという言葉は多分口にすることなく、指揮者がとにかく言葉とリズム、発音のタイミングのことを最後まであきらめず地道に稽古をしていました。結果ピアノとのアンサンブルに何の不安もありませんでした。「心地よく、合っている」ということはあくまで結果なのですが、そこへの道のりが僕と歌い手を音楽で結んでくれました。緊張関係を保ったまま短い舞台を終え充実の時間でした。そういった地道な取り組みの中にも充実さへ導いてくれるヒーローが隠れています。

ですがそのことは、僕の大好きなベートーヴェンのピアノソナタがもっとも教えてくれます。ソナタ形式はコミュニケーションの塊とも思っていますが、様々な表情を持つ個々の作品の素晴らしい演奏を聴いていると、あるいは練習していると僕に教えてくれるのです。ヒーローはそこにいる!と。それを輝かせるようにそのまま演奏する事は、楽しみでもありますがやればやるほど難しいです。そんなこんな、色々なことを感じながら、思い出しながら、合唱団の皆さんとの共演も楽しみに普段活動しています。